評伝シャア・アズナブル | 普遍化するガンダム

 2006年12月に登場したふたつの「ガンダム」小説。『評伝シャア・アズナブル』と『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』(角川書店刊「ガンダムA」連載)。くしくも同時期に登場したこれら作品からは、「ガンダム」がもはや「大人でも楽しめるアニメーション作品」といった領域をこえて、世代の共通体験ともいうべき、「普遍的な物語」になるのだという意思が伝わってくる。

これらの画期的な作品の著者、皆川ゆか氏と福井晴敏氏にご登場いただく特別対談企画、後編を公開いたします!!

「おれたちはなんで戦争が起こるのかが知りたいんだ」という問いかけに、それに答えているのは実はガンダムしかないんですよ

福井晴敏 カトキハジメ(注1)さんとメカについて打ち合わせをしているときに、おれも今まで気がつかなかった自分の性癖が露呈しました。自分はモビルスーツにおけるデブ専でした。ドム(注2)はいいですね。ゾック(注3)までいくというと、ちょっとアレなんですが。

皆川ゆか著『評伝シャア・アズナブル』
「この男の人生、他人事(フィクション)じゃない」(福井氏による推薦文)あまりにも魅力的な男、シャア・アズナブル。『機動戦士ガンダム』『機動戦士Zガンダム』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場した彼の生涯を、ひとつの評伝として再構築。シャアの名セリフとともに人間シャアの生き様を浮き彫りにし、かつて「ガンダム」に触れた世代の人間が小説で「ガンダム世界」を追体験することを可能にした画期的な作品。上下2巻構成 定価:各600円 詳細はこちらです。
http://shop.kodansha.jp/bc/
comics/topics/char/index.html

皆川ゆか あれ、怪獣ですから。

福井 なんかこう。ボテッとした感じがいい。手ごたえを感じると言いますか。あと、ゲルググ(注4)なんかもいい。

皆川 ゲルググの鼻の穴は大丈夫ですか? 顔に二つピッピッて開いているヤツ。

福井 開いてますね。言われるまで気がつかなかったけど、鼻だと言われると気になって仕方がなくなりそうです。やっぱりおれもウルトラマンとかロボットなアニメで育ってきた世代なんですよ。主人公のガンダムは細くってスマートで、それに対峙する相手のヤツはボベ〜ンってほうがなんか、燃える感じがします。サザビー(注5)とかもいいですね。

皆川 私もハンブラビ(注6)とか好きですよね。ただ、私の場合、完全にはガンプラ世代でないので、メカよりもセリフから入っていきました。アフレコ台本とか、今、繰り返して読んでも感動して泣いちゃうんですよ。アムロのお母さんの話(注7)なんかボロボロ涙を流しながら読んでしまいます。

福井 『逆襲のシャア』('88)なんか最高でしたよね。全編名セリフでした。

皆川 会話になっていない会話。そこのすれ違い感が(笑)。キャラクタービジネスとして考えると『ウルトラマン』('66)がソフトビニールの人形で大ヒットしたように、ガンダムはガンプラで成立していると考えるのは正しいんです。だけど、『ウルトラマン』が怪獣の魅力だけの作品じゃないように、ガンダムもモビルスーツのかっこ良さだけでヒットしていたのなら、とっくに忘れ去られていたはずですよね。

 ガンダムは大人になって見返して「自分はこんなものにだまされていたの?」、「こんなおもちゃを子どものころに持っていたの?」みたいな気持ちにさせない作品であることは確かなんですよ。「なぜ自分はこれを好きだったんだろう?」という若さゆえの過ちみたいなものは浮かんでこない。それはやはり当時のスタッフが見据えたものがちょっと違ったっていうのがありますよね。

福井晴敏著『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』
『月刊ガンダムエース』(角川書店刊)にて2006年12月より連載が開始された小説。物語は宇宙世紀1年から始まり、その後約100年後に舞台が移る。あの1年戦争や「Zガンダム」で描かれたグリプス戦役、シャアの反乱や小説『閃光のハサウェイ』の主題となったテロ事件など、宇宙世紀の巨大な歴史をその中に包含。またキャラクターデザインを安彦良和氏、MSデザインをカトキハジメ氏が担当するなど、既存の小説のフレームを越えたビッグプロジェクトとして、注目を集めている。福井晴敏氏公式サイトhttp://www.fukuiharutoshi.jp/

福井 クローバーというおもちゃ会社がスポンサーになり、そうしたビジネスの「縛り」の中で最初の『機動戦士ガンダム』をつくったスタッフの人たちの心意気っていうものがあるじゃないですか。「縛り」という状況は今もなにも変わってないわけなんですよ。だから今、おれたちがガンダムを書くときにも、ガンダムの市場が大きくなったからといって「市場に乗っかってなにかやろう」じゃなくて「その市場の中でなにがやれるか」を見据えるべきでしょう? おれたちはガンダムからフィルムの力を感じ取っていた。同じような力を今の人に感じてもらおうと思ったら、その志のところから始めないと絶対に無理です。

 なぜ、おれがガンダムを書くのか。それは「おれたちはなんで戦争が起こるのかが知りたいんだ」という問いかけに、それに答えているのは実はガンダムしかないんですよ。

 おれたちが暮らす社会には、教科書でも、学校の先生でも教えてくれないようなブラックボックスがある。たとえば「戦争はなぜ起こるか」という問いには答えてくれない。戦争はよくない、という答えはいっぱいあるんです。『火垂るの墓』('88)(注8)を見せて「戦争は悲惨だ」と伝えるようなことは行われている。しかし、なぜ戦争は起こるかという問いかけに対しては、当時の日本の帝国主義が悪だった、軍部がわるかったというところでみんな納得しちゃっているじゃないですか。

 ガンダムを踏まえて現在の世情を見ると、作中で描かれた物語と今実際に体験している情勢がフィットするところがあります。そのキーワードは、そろそろ古い言葉になりつつありますが“格差社会”。要するに「貧乏人は宇宙に行け!」というのが、ガンダムの世界ですよね。最初の人たちはおとなしく、あるいは泣く泣くロケットに乗せられて宇宙移民に乗り出した。そして、そうした歴史があったことも、忘れられたころになって「おれたちは宇宙に棄民されたのだ」とたきつける人たちがいてジオンの戦争が起こったという構造です。初期のあつれきが忘れられたといっても、なにかしら不満を持ち続けていた層というのがいて、そこにつけた火がずばりはまって戦争が起こる経緯というのは、日々新聞を見ていても同じことが書かれている。

皆川 『機動戦士ガンダム』('79)の企画自体、やはりアメリカの独立戦争がモチーフにあったそうですね。

福井 ガンダムではジオン公国が悪として描かれるかといったらそうじゃない。あの人たちは、あの人たちの置かれた状況があって、結果的に戦争を起こさざるを得ない状況だった。要は善と悪ではなく、せざるを得ないという他人と他人の状況がぶつかりあったときに戦争が起こる。こんな単純なことをおれたちは習わずにきていたわけですよ。それをガンダムが無意識のうちに教えてくれたんです。ガンダムはずっと同じことを言い続けています。要するに、確執を描いていた。

皆川 異文化同士の衝突を描いた『∀ガンダム』('99)(注9)では「なんでこんないい人たちが戦争をするんだ。戦闘シーンなんてないほうがいい」って願いながら観てましたもんね。

(注1)カトキハジメ
福井晴敏氏もファンであると公言しているメカデザイナー。『ガンダム』シリーズ以外のメカデザインも多く手がけているが、『機動戦士ガンダムΖΖ(ダブルゼータ)』以降、多くの『ガンダム』シリーズにメカデザインとして参加している。またガンプラのデザイン監修も務めており、オリジナルのデザインにプラモデルならではの解釈を加え、現代風にリニューアルもしている。カトキハジメ氏によりリニューアルされたデザインはver.K(バージョン・カトキ)とも呼ばれひとつのブランドになっている。
(注2)ドム
『機動戦士ガンダム』に登場した敵、ジオン公国軍のモビルスーツ。シリーズ中盤に登場し、それまでのザク以上の重量級モビルスーツとして描かれていた。
(注3)ゾック
『機動戦士ガンダム』に登場した敵、ジオン公国軍のモビルスーツ。水陸両用機で、通常のモビルスーツより一回り大きく、全体にボリュームのあるデザインをしていた。ただし、前後が対称であったり、手足がほとんど自由に動かないなど、モビルスーツというより移動砲台に近い存在だった。
(注4)ゲルググ
『機動戦士ガンダム』に登場した敵、ジオン公国軍のモビルスーツ。本作中ではジオン公国軍が最後に量産したモビルスーツで、性能的にはガンダムと同等以上とされていた。しかし、最後の戦いの前後では学徒動員兵が乗り込む有り様で、十分な活躍を見せることはなかった。なおシャアも試作段階の赤いゲルググに乗り込み、ガンダムと何度か戦っている。
(注5)サザビー
1988年に公開の劇場映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に登場したモビルスーツ。ネオ・ジオン軍で、総帥・シャアが自ら乗り込んだ。やはり赤い。アムロの専用機ν(ニュー)ガンダムと死闘を繰り広げて撃破された。
(注6)ハンブラビ
『機動戦士ガンダム』の続編として1985年度に放映された『機動戦士Ζ(ゼータ)ガンダム』に登場した敵、ティターンズが使用した可変モビルスーツ。横に尖ったいかり肩と、やはり尖った頭部の形状からイカとたとえられることもあるモビルスーツ。そのためファンにとっては非常に印象深い機体だが、その登場は番組後半の一部に三機程度でしかない。
(注7)アムロのお母さんの話
『機動戦士ガンダム』第13話「再会、母よ…」。宇宙での生活に馴染めず、家族と離れて地球で暮らす母に、主人公、アムロ・レイが再会するエピソード。お互いの無事を確かめ合う親子だが、敵兵士に向って銃を撃つアムロの姿に、母親は自分の中にある息子の記憶との深い溝を感じる。
(注8)『火垂るの墓』('88)
高畑勲監督の劇場映画。原作は野坂昭如氏の同名小説。製作は“宮崎アニメ”でおなじみのスタジオジブリ。1945年の終戦前後に空襲で焼き出された幼い兄妹が、疎開先からも飛び出し、ついに亡くなるという「戦争の悲惨さ」を描いた作品として知られる。
(注9)『∀(ターンエー)ガンダム』('99)
1999年度に放映された「ガンダム」シリーズのひとつ。1993年度放映の『機動戦士Vガンダム』以来、富野由悠季氏が久々に監督したことで話題を集めた。2002年には再編集され前後編となった劇場版『地球光』『月光蝶』も公開されている。そのノベライズ版は福井晴敏氏により著されており、現在は『月に繭 地には果実』として幻冬舎から出版されている。
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