MouRaトップページ> 読み物/エッセイ>

吉田自転車 [書籍]

RSS
1回だけ帰ってきた吉田自転車
1回だけ
毎週、自転車に乗ってそこいら辺に出かけ、その様子をイラスト&フォト&エッセイにしたため、日本人に自転車を尊敬する心を呼び起こした大人気連載、『吉田自転車』。7月に発売された単行本も大好評、各界で大歓迎されている。その証拠に吉田氏のもとにさまざまな取材依頼が殺到、なんとNHKラジオからも「吉田自転車について語ってください」と出演要請が来た。
今回「帰って来た『吉田自転車』」としてその様子をお届けします。

 題字:吉田戦車 文:吉田戦車 イラスト:吉田戦車 撮影:吉田戦車

受付
<< 受付>>
 
自転車の起源! セレリフェール型の問題点

行本『吉田自転車』発売から2ヵ月。
それに関係する仕事や取材の依頼が何件かきた。
競輪の電話投票会員用の無料配布誌『ウイニングラン』の取材を受けたり、『週刊文春』の「私のごひいき ベスト3」というコーナーに、吉田自転車外伝のようなものを書いたり。
中でもおどろいたのは、NHKラジオ第1放送『ラジオいきいき倶楽部』生出演の依頼である。
『吉田自転車』をとっかかりに、漫画の仕事と健康的な暮らしとのあれこれを何かしゃべってください、ということだった。

れまでにもテレビやラジオの出演依頼は、何件かいただいたことがある。
テレビは恐縮しつつ全部断った。
世の中にはテレビに出るのが好きな素人さんも多く見受けられるが、俺は自分のまぬけづらをテレビなんぞに出すのはまっぴらだ、と考える素人さんである。
テレビは好きだが、それは見るのが好きなのであり、見られる仕事はプロにおまかせ、わしゃ勘弁と思う。
ラジオは出てみた。
『さくらももこのオールナイトニッポン』や、ホイチョイ・プロダクションズの馬場さんがやっていたFM番組のゲストであるとか。
いずれも録音であり、ものすごくダメなところは編集してもらえるだろう、という気軽さがあった。

回はなんと生放送の出演だ。
断ってもいい話だし、午前10時って、リスナーで俺の読者などひとりもいない時間帯ではないか?
5秒考え、ひきうけることにした。
NHK様バンザイ、という気持ちが心のどこかにある。
地方におけるNHKのステイタスの高さのようなものがしみこんでいるのだ。
田舎の親がまわりに自慢でき、親孝行になるのではないか。
そう考える恥ずかしい自分がいる。
ポルシェを乗りまわしアルマーニのスーツを着ていても(うそだが)、体を構成する北のDNAがどうしようもなくNHKを崇拝させるのだ。
とまあ、いつものように誇張度80%UPで書いたが、つまりは「ラジオだからいっか」という気軽さでひきうけてみたのである。

送1週間前に渋谷のNHKに出向き、ディレクターの南氏、山田敦子アナウンサーとうちあわせをした。
南ディレクターはまだ若い人で、午前中のNHKラジオに俺を出してみようという発案はこの人のものだった。
ラフな進行表をもとに、リハーサルのようにあれこれ話をしていく。
気さくでステキな声の山田アナも、がんばっていろいろ俺の本を読んでくださったようで、スムーズにうちあわせはすすんだ。

「生放送というのはたいへんでしょうねえ」

「いえむしろ、1回勝負であとくされがなくて気楽ですよ」。

それは、毎日こなしているアナウンサーさんはそうかもしれないが……
帰りぎわ、ロビーにたむろする『おかあさんといっしょ』出演のチビッコとその保護者群を押しのけながら、急速に緊張する自分を感じていた。

進行表
方面に通知し、一見落ちついたようすで1週間をすごした。
前夜、仕事や雑用をすませ、久しぶりにバスタブに湯をためて耳のうしろまで洗い、さてあしたは早いぞと、夜11時にふとんに入った。
が、眠れなかった
最近は午前2時か3時の就寝なのでむりもない、と思い、起きてビールを飲みながら、ビデオに撮っておいた『北の国から2002 遺言』の前半をみはじめた。
みおわったのでテレビのスイッチを切り、ふとんに入った。
眠れない。
つづきが気になるから、というわけじゃないことはわかっていたが、しょうがないのでまた起きて後半をみはじめた。
寝ないとあしたつらいぞ、と思いながら全部みおわり、再度ふとんに入ったのがもう午前4時。
7時には起きないとやばいと思いながらようやくうとうとし、ぜんぜん寝た気がしない状態で目覚まし時計にたたき起こされた。

着時間が読めなかったので、早めに出かけることにした。
あいにく外は雨。自転車はハナからあきらめざるを得ない。
仕事場のある駅から明大前駅まではまだ、人として普通に立っていられた。
明大前で乗りかえた朝の京王井の頭線が、ものすごかった。
数年ぶりでラッシュアワーというものを味わい、午前中のラジオ出演なんかをひきうけたことを激しく後悔した。
もうぐちゃぐちゃ。
こんなことを毎朝やっている勤め人や学生のみなさんに心から同情する。
このまま見知らぬ親父たちと合体融合してしまうのか、という恐怖にかられながらも、すさまじいおしくらまんじゅうの末になんとか無事に渋谷の街に吐きだされた。

いぶん早く着いてしまったので(それでラッシュに拍車をかけたわけであり、すいませんでした)、久しぶりの渋谷の街をカサをさして散歩した。
腹はまだへっておらず、ラジオのあとに食おう、とねらっていた店を探す。

あった。

東京進出したばかりの「セルフの讃岐うどん屋」だ。
ここで第1食をとろうと、1週間前から決めていたのだ。
うどん、の文字を闘志満々でにらみつけ、NHK放送センターに向かった。

高に緊張しつつ、スタジオに入りスタンバイした。
当たり前だが、すでに放送は進行中なのだ。
さまざまな機器類と、働く人たち。写真に撮ろうと思ったが、なんとなく全体が古びており、万が一にもデジカメに幽霊のたぐいが記録されたりしたらいやなのでやめた。
笑っていただいていい。
一度も見たことはないが俺は幽霊が怖くてたまらないのだ。おとなになった今でも心霊番組などは絶対にみない。
幽霊の次にいやなのが宇宙人。あいつらも何を考えているのかわからない。
しかしそいつらをおさえてダントツに怖いのは人間であり、世の中怖いものだらけということである。
話をもどすと、こういう音声をあつかう場所には、なんか因縁話とかあったりしそうじゃないですか。
「ここ、出るんですよ」などと言われたわけではないが、どこかの音楽スタジオにおける怪談などを思いだし、撮影はひかえておいたのである。

よいよ本番。
テーマ音楽のあと、山田アナウンサーの先導のもと、緊張にかすれた声であいさつをする。
肩がガチガチになっており、自分が何をしゃべっているかよくわからない。
しかし、最初の曲が俺を救ってくれた。
『マジンガーZ』のテーマであった。
俺のアニソン好きを知り、南ディレクターが用意してくれていたのだ。
山田アナが目の前で4コマ漫画を朗読しだしたときには死にそうな気持ちになったが、アニメ主題歌効果はてきめんで、緊張はどんどんほぐれていった。

んとか普通にしゃべれるようになったかな、というあたりで、FAXが届きはじめた。
これには南ディレクターもほっとしたという。
さすがに、はたしてくるだろうかと心配していたらしい。
男性ひとり、女性5人のかたがFAXを送ってくださった。
本当にどうもありがとうございました。
人間も怖い人間ばかりじゃないんだ、とあらためて思った瞬間でした。

かし本当の試練はそのあとにきたのである。
コーナーの中盤、交通情報やニュースが入るあたりで猛烈に腹が鳴りはじめた

ぐぐ〜〜〜〜〜〜きゅるる〜〜〜〜〜〜。

まるで漫画の擬音のように、静かなスタジオ内で鳴りつづける腹。
「大丈夫ですよ、入りませんから」
山田アナが言ってくれたが、俺の恥ずかしさと不安はふくれあがる。
万にひとつ、マイクが俺の腹鳴りをひろってしまい、全国に流れたら……
ふたたびコーナーがはじまり、俺は腹の音をおさえこもうと、ぼそぼそとした声のボリュームをけんめいに上げた。

ナイスバイク号や、犬や、ベン・ハーのことなどを、自分に可能なかぎりの快活さでしゃべりつづけた。
『吉田自転車』の宣伝になったかどうかは怪しいところだ。

うして非日常的な仕事は終わった。
『スタジオパークからこんにちは』の見学とおぼしき老人数人をはねとばしながら外に飛びだし、うどん屋に駆けこむ。
注文手順はHPにて予習済みだ。
「かけうどん、中」は薄味でリーズナブルであり、減りきった腹にすばらしかった。
ただ汁がずいぶんぬるいのと、床がボーリングのレーンのようにつるつるすべるのが気になった。
そこらへんをあれしつつ、多摩地域にもどんどん進出し、俺の自転車麺ライフをゆたかにしてほしいものだ。

了後にいただいた録音テープを聴き直すことは絶対にないだろうが、子供が聴いたようだ。

「最初にのんきな音楽が流れてよかった」

ということである。俺部分への感想は無しかい。

単行本「吉田自転車」絶賛発売中!
吉田戦車のイラスト入りエッセイ
速くて健康にいい。おまけに環境にも優しい。そんな“最高の乗り物”が自転車だ。
漫画家である吉田戦車氏が愛車“ナイスバイク号”にまたがり、主に西東京を疾走! 自らエッセイをしたため、写真を撮影し、そして当然ながらイラストもばっちり描いた、という絢爛豪華な一冊。それが単行本『吉田自転車』だ!
「Web現代」連載の全20回をまるごと収録。あの“自転車界のカリスマ”も大絶賛だ! 自転車、サイコー!!

 

吉田自転車過去ログ
書店にない場合はご注文いただくか、あるいはこちらにて確実のご購入いただけます。
《講談社BOOk倶楽部》 http://www.bookclub.kodansha.co.jp/Scripts/bookclub/intro/intro.idc?id=30869
吉田戦車氏 プロフィール
1963年岩手県生まれ。小学校時代はサッカー部に所属。中学、高校時代は剣道部に所属する。その後上京し、1年間の浪人生活を経て某私立大学に入学する。1983年のデビュー後、恒常的に日本のギャグ漫画家のスターとして皆に仰がれてきた。代表作は『伝染(うつ)るんです(第37回文藝春秋漫画賞受賞)』『油断ちゃん』などたくさんある。
まさお君がくれたもの
14歳
【マンガ】バーバーハーバーNGサンプル-06.06.17
【エンタメ/テレビ】cafe de よしもとサンプル-06.01.01
【読み物/エッセイ】志らく計画サンプル-05.07.08
【占い】ダークサイド占星術 結婚相性サンプル-07.10.09
【エンタメ/テレビ】CloseUp Flash無料-09.08.04

吉田観覧車はこちら
絶賛連載中。吉田戦車さんの日本観覧車紀行「吉田観覧車」

吉田さんの楽しいエッセイ『吉田自転車』が文庫になりました!!

吉田自転車
大人気! 単行本
『吉田自転車』
ご購入はこちら。
第19回 第1回