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新聞の大連立

 
 

 過去にもマスコミ界ではジャーナリズムを傷つける様々な事件が起こってきた。NHK大津放送局記者の自作自演の放火事件、朝日新聞の珊瑚さんご事件、NHKのムスタン王国取材のやらせ事件、関西テレビの「あるある大事典」捏造番組事件など数え上げればきりがないほどの不祥事が起こっている。
 しかし渡辺氏が関わった今回の一件はそうした不祥事のレベルを超えた重大な意味を持っている。
 さらには政界の大連立だけでなく、忘れてならないのは国民の新聞離れに伴う部数減と経営危機にあえぐ新聞界の“大連立”の動きである。
 新聞社の“勝ち組”といわれる朝日、日経、読売の3社が共同で進めているエニー(ANY)と呼ばれるインターネット事業のことだ。米国のインターネット最大手のグーグルと提携してポータルサイトを運営するというが、その目的はネット広告のおいしい部分を吸い上げるためとか、販売店網を共同で再構築する狙いがあるなど、様々に取り沙汰されている。なるほど、見かけはインターネット事業だが、社論の異なる大新聞3社がいっしょに事業をやる思惑、背景と動機は軽視できない。
 近年、渡辺氏は靖国神社首相参拝への反対の立場を鮮明にしており、思想的には朝日の立場に近寄ってきている。青年時代の渡辺氏が反戦、反軍国主義の運動家だった経歴を見れば靖国参拝反対は当たり前かもしれないが、最近、しきりに朝日関連の紙面や雑誌に顔を出すようになった渡辺氏の動向は、新聞の大連立と連動しているのではないかと気になる。
 もしも新聞の大連立が実現して日本を代表する大新聞3社の社論が同じ方向を向いたとすると、ただでさえ画一的な日本の新聞から多様性がいっそう失われ、反対意見や少数派の世論はかき消される恐れがある。
 仮に渡辺氏が目指した政界の大連立と新聞の大連立が実現した社会を想像すると、なんとも空恐ろしくなるのは私だけだろうか。その社会は言論の自由を失って圧倒的な同一世論が支配する、まさに大政翼賛会的な全体主義の世界ではないか。
 いまや日本のジャーナリズムの思想が問われ、日本の新聞の役割とは何かという原点の問題が突きつけられているのである。これは読売新聞だけの問題ではなく日本の新聞界全体の問題である。自由で健全な民主主義社会の成熟にとって、各新聞の自由と多様性と独立性は不可欠だ。新聞は活字を通じて国民が多様な意見、賛成意見、反対意見を自由に闘わせる場であり、一方的な見解を国民に押し付けるためのメディアではない。
 若き日に哲学者を志向した渡辺氏にはこの問題をさらに深く掘り下げて説明して欲しい。ジャーナリストの大先輩がジャーナリズムの分際を逸脱したことは、後に続く者たちをおおいに惑わせている。
 渡辺氏は自らの口で大連立に関わった行動の軌跡を明らかにし、読売社内や周辺の人にだけ通用するジャーナリズム論ではなく、より普遍的なジャーナリズム論を1000万読者と国民に語る義務があるのではないか。


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