「ポスト福田の最右翼」が霞が関に宣戦布告 中川秀直「革命の時は来たり」聞き手/末延吉正(ジャーナリスト)
——評論家の堺屋太一さんによりますと、日本人は基本的にお上まかせの国民であるけれども、70年か80年に一回ぐらいの割合で大変革が起きて、そのときは民草がお上かみを恐がらなくなるそうです。それでいくと、今はまさにそういう怒りのエネルギーが国民のなかに充満しているのではないか。
そういうなかで、公務員制度改革に取り組んできた中川さんの官僚批判が注目されています。

写真/西崎進也
中川 いま明治維新から141年ですが、公務員制度に手をつけるのは、じつに(第二次)山県有朋内閣以来の110年ぶりなどと言われています。もちろん、われわれ政治家もしっかりしなければなりませんが、その政治家の言うとおりになかなか動かない奇妙な共同体が霞が関にある。それがどうも四方八方に手を伸ばして改革の邪魔をする。しかも彼らは「霞が関文学」といわれる不思議な言語を弄する人たちで、「検討します」とは、すなわち何もやらないことと同義語になっていて、すべて先送りして事足れりとする。
お金が足りなくなればすぐに増税を持ちだし、なにかと国民を規制で縛り上げたがって、結局、それが日本を「停滞国家」にしてしまっているわけです。しかも、自分たちが手がけた政策の失敗の検証はしないし、だれも責任をとらない。こういう官僚に対する不信感が積もり積もって、もういい加減にしろという怒りが国民のなかに沸々と沸き起こっていると思いますね。
——最近出された『官僚国家の崩壊』(小社刊)のなかで、霞が関の官僚を、見えざる抵抗勢力という意味で「ステルス複合体」と表現されていますね。
中川 この本は幅広く老若男女に読んでいただいており、ありがたいかぎりですが、「ステルス複合体」の正体は、霞が関を中心とした劣化した日本のエリートたちです。小泉(純一郎)内閣から続く構造改革の本質は、言い換えれば、このエリートを叩き直すことなんですね。日本の庶民の水準は国際的に見て、いまも非常に高いけれども、エリートの質は明らかに劣化している。これに正面から取り組まないと、この日本の閉塞感は打破できないと思います。
——昨年の社保庁問題から本格的に高まった官僚不信ですが、年金の保険料でゴルフボールなどを買っていたという話や、例の「居酒屋タクシー」の話にいたって、国民はもう呆れ果ててしまって……。
中川 結局、官僚機構を根本から変える勇気をもって一歩を踏み出さないと、日本は世界からどんどん取り残されてしまいます。この先、日本に何が訪れようとしているかというと、人口減少社会です。推計によると、あと40年か50年たつと、日本の人口はいまよりも4000万人も減ってしまう。当然、このままでは労働力も生産力も減少するわけです。これに対して、これから団塊の世代をはじめとする高齢者の社会参加を進めることで労働力不足を補おうという意見もありますが、それだけで将来の日本の国力低下をカバーできるはずもない。
40年後の日本を見据えて
——そこで最近、中川さんが提唱している移民国家論が浮上してくるわけですね。
中川 要は門戸を開いて、海外からの労働者や留学生を積極的に受け入れる「人材開国」をしようというものです。たとえばカナダやオーストラリアは、新しいカナダ人や新しいオーストラリア人をつくる取り組みを始めていて、とくにカナダでは年間25万人の外国人に永住権、市民権を与えています。こういうふうに、外国人を積極的に受け入れることで新しい国をつくるという発想があってもいいと私は思うんですね。
もちろん日本が門戸を開いたとき、高学歴の外国人がたくさん来てくれたらそれに越したことはないけれども、実際問題、単純労働の人口だって、この先足りなくなるのは目に見えています。それを考えると、まず国内のフリーターやニートの対策を講じるのは当然としても、それだけでは将来起こりうる問題には対応できず、やはり海外からの労働力を受け入れないと間に合わない。
——カナダでは移民に英語の試験を課すなどの取り組みをしているそうです。
中川 われわれが目指すべきも、そういう育成型の人材開国ですよ。要は、40年後に日本の人口が4000万人減るのなら、それを前提にバックキャストして何らかの手立てをいまから講じていかないといけないということです。4000万人減少するといっても、一度に減るわけじゃない。単純計算すれば、1年に100万人ずつ、40年かかってそれだけ減っていく。それならば、40年後の日本はこうなっているだろうという想定のもとに、いま何をなすべきかを考えるべきなんです。
そこで大切なのは、みんながそれぞれの能力を発揮できるような社会にすることですね。そうすれば経済だって伸びる。さらに海外からの頭脳や労働力も積極的に受け入れて経済を活性化させようというわけで、そういうことをひっくるめて「上げ潮」と呼んでいるわけです。
ところが、いま霞が関がやっているのはフォアキャスト、つまり、いまこうだから数年後はこうだろうという、いわばツギハギのパッチワークみたいな議論ばかり。これじゃ駄目で、40年後の日本を見据えた新しい仕組みづくりなど、霞が関の官僚にはとてもできません。
福田内閣の不思議さ
——やはり大本おおもとの骨格部分は政治家がつくらないと。
中川 そうです。基本的な戦略を立てるのは、国民から選ばれた政治家がすべきです。民意を代表している者が国の屋台骨をつくる。これが民主政治の基本でしょう。それを官僚にさせるのは政治家にとって自殺行為というべきで、官僚に委ねてはいけないし、委ねてもいないのに官僚が勝手にやってしまうのなら、政治家がストップをかけないといけない。
だいたい日本の官僚が優秀だと思うのは、いまや時代おくれというべきでしょうね。東京ディズニーランドができて25年ですけど、25年前と現在では、若い人の価値観もずいぶん変わり、東大法学部から中央官庁へというコースにいまの日本人がどれだけ価値を見いだしているか疑問です。考えてみると、東大卒で官僚出身の総理大臣は宮沢喜一さんが最後で、そのあとの9人の総理大臣はみんな私学出身なんですよね。
こういう日本人の変化に気づいていないのが霞が関の官僚たちです。ただ、日本はアメリカのようにシンクタンクが充実していないために結果的に政治家が官僚に依存してしまい、官僚もまた頼まれもしないのに勝手に口を出すところがあるわけですが。
——そこまで言ってしまうと、官僚たちから、いろんな嫌がらせがありませんか。
中川 直接的に何か私に嫌がらせをするということは、今のところありません。最高学府を出た自分たちは、そんなことで動じないよ、ということのようですが、裏で文句を言っているという話は耳に入ってきています。どこの何という官僚が何を言っているか、こちらにも情報網はありますからね。最高学府を出たんなら、裏でコソコソ言わずに、堂々と正面切って批判しろ。これ、ちゃんと書いておいて(笑)。
——ただ、民主党が日銀総裁人事に反対しているとき、鳩山(由紀夫)幹事長が、あまり財務省とケンカをすると政権を取ったときに官僚からしっぺ返しを食うのではないかと発言したという話も聞いています。やはり政治家のなかには官僚に対する恐れのようなものがあるんですか。
中川 私にはありません。政治家が恐れるとしたら国民です。国民は、自民党と民主党のどちらが本気で官僚制度にメスを入れるか、つまり霞が関をめぐる改革競争の行方に注目していると私は思っていますから。それでいうなら、民主党はこれまで公務員の削減や給与の引き下げなどはいっさい口にしていないし、マニフェストに掲げたこともない。
——民主党にとって官公労は選挙の頼みの綱ですからね。
中川 でも、そこにメスを入れないと霞が関改革はできない。そこへいくと、福田(康夫)内閣は一歩一歩改革を進めています。小泉さんみたいに、これに「命を懸ける」と明言するような派手さはないけれども、道路財源一般化にせよ、公務員制度改革にせよ、消費者庁にせよ、着実に前に進んでいます。
——いや、だから福田政権というのはおもしろいと思うんです。当初、官僚寄りとも見られていた福田総理ですが、支持率が下がれば下がるほど改革が大胆になっていく(笑)。
中川 たしかに福田内閣は支持率が下がるほどに求心力が働くというおもしろい内閣で、ともかくも結果を見てくれというのが福田流なんですね。このまま選挙になれば自民党は負ける可能性もある。だから、改革の成果が見えるまで福田総理に行けるところまで行ってもらおう、そのためには協力を惜しまないという気運が党内で高まっている。つまり国民の支持率は下がっているのに、党内の支持は上がっているわけです。


